暑さも盛り、日が暮れて随分と時間の経った夜中になっても、じっとりとして重く暑苦しい空気は消えようとしない。
湿度の所為か、今夜はやけに、和室特有の木の臭いが鼻に付く。
中々寝付けないまま、時間だけが無為に過ぎてゆく。
先ほどまで聞こえていた虫たちの声も聞こえなくなり、「草木も眠る丑三つ時」とは、このことか、などと、ぼんやりと思った。
何度目かの寝返りをうった時、不意にカタンと無機質な音が、障子越しの廊下側から聞こえてきた。
風かなと思い、最初は気に留めなかったが、カタン、コトリ、カタン、コトリと、規則正しく響くその音は、次第に大きくなってくる。
その、まるで「なにか」が「歩いて」こちらに近づいてくるような音に、風ではないと察知する。
では、一体何なのか。
それを考えると、暑さで熱された身体がサッと冷えるような気持ちになった。
「なにか」が、すぐそばまで、近づいてきている…
僕はそのまま寝ていることに耐えきれず、布団から這い出ると、バンッと力いっぱい障子を開ける。
月明かりが差し込み、電気を付けなくても辺りの様子は良く見えた。
「何も、いない」
恐怖を打ち消すように、わざとらしく声に出してそう呟いた。
音も、もう、聞こえない。
「夢だった…?」
寝付けないと思っていたつもりが、いつの間にか寝ていたのだろうか。
そう考え直すと、ドキドキと早打つ心臓の音も、いかにも滑稽で、笑いが込み上げてきた。
安心すると、自分の喉がカラカラな事に気が付き、折角起き上がったので喉をうるおそうと、廊下に出ると、電気を付けないまま、慣れた足取りで見慣れた風景の中、冷蔵庫へ向かう。
視界の端に、決して見慣れぬはずのモノが映っていたにも関わらず。
ソレに気付かずに
こんにちは、花子よ。
今回は夜の美術館を案内するわね。
無駄に長い前フリはノリで書いただけで、内容に特に意味は無いわよ。
それから、私としてはものすごーく不本意なんだけど、私(市松人形)の写真が苦手な方は、そっとページを閉じてね。
因みに、夜は普通に涼しいわよ。
では、行きましょう。
ちゃんとついていらしてね。
私から離れると…危ないわよ。
今日は大正時代の洋館をうろうろしようかしら。
日中とはまた感じが変わるでしょ。
吹きガラス特有の「ゆらぎ」と、所々にある落ち着いた灯りとが、現代には無い独特の雰囲気をかもし出しているわ。
…意外とね、歩くと昼間より距離が長く感じるのよ。
応接間よ
この写真に私は写ってないわよ。探したら、見えるかもしれないけれど。
暗い中、少しの明かりに照らされて艶やかに光る建具に、時代を感じるわね。
…昔のスナックとか、店内を薄暗くして、年配のママも年若い美人に見えるなんて話、たまに聞くけど、どう?わたしキレイ?
ふふふ、言わなくても分かっているわ。明るいところの方が一層キレイに見えるって。
灯り一つだけって、一歩先は本当に闇なのよね。
何か見える気がしてもおかしくないわねって、本当に思うわ。
続きはまた今度。
因みに、冬になったら、「ナイトミュージアム」を開催しているわよ。
[9回]
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